てぃーだブログ › 世界をHappyにするStoryを描こう › タラターナ 第1話 › 第7章 やさしいゆうれい
 あおいちゃん、なつきちゃん、今日はおばちゃんがご用で出かけてる間に、お外で遊んでたんだって?もう、お風邪は、大丈夫なの?

 え?なんで知ってるかって?だってね、ふふふ、向かいのおばあちゃんがね、あおいちゃんとなつきちゃんが、お姫様になって「おーっほほほ」って笑ったり、ポンポンポンって雲の上を飛ぶみたいにして遊んだりしてたよ、って教えてくれたの。楽しかった?そう、よかったね。

 どれ、なつきちゃん、おばちゃんとおでこをごっつんこ。うん、昨日よりは、少しお熱が下がったみたいだね。あおいちゃんは、大きなお口を、あーんって開けてみて。うんうん、喉のハレもだいぶおさまってきたみたいだね。ふたりがいい子だから、風邪菌マンが、どっかに行っちゃったのかな?明日か、明日の明日には、きっと元気になると思うから、それまでは、あんまり長い時間は、お外で遊ばないようにしようね。それじゃあ、お話の続きを始めましょう。


 昨日は、日の王子とひかりちゃんが、秋の村の小さな小さな郵便局長さんに会ったところまでだったよね。
 それでね、郵便局長さんは、日の王子とひかりちゃんの顔を見比べながら
「今日は、どちらへ?」
と、聞きました。

「実は、長老にお会いしたいのですが」
と、王子様が答えると、郵便局長さんは、びっくりした顔をして、
「なにか、急用でも?」
って聞きました。

 どうしてかっていうとね、長老はあんまりお年寄りすぎて、もう誰にも何歳なのかわからないくらいお年寄りだったので、めったなことでは人に会わないからです。 

「え~っと、たしか今日あたり、長老のお誕生日だったと思ったので、お祝に」
と、王子様はとっさにウソをつきました。だって、穂の姫がいなくなっていることは、ナイショでしょ。

 すると、郵便局長さんは、
「おや、たしか少し前にも、穂の姫が同じことを言って、訪ねてきたような・・・」
と、そのときのことを思い出すように、小さなおでこに、小さな手を当てました。

「あ、あら、郵便局長さん、それはきっと勘違いですわ。だって、穂の姫は方向音痴ですから、こんなところまで、ひとりでは来れませんもの」
と、ひかりちゃんも、とっさにウソをつきました。

 方向音痴っていうのはね、え~っと、行きたいところに行けなくて、すぐに迷子になっちゃう人のこと。実は、おばちゃんもそうなんだよ。

 するとね、郵便局長さんは、はじめてひかりちゃんがいることに気がついたみたいに、ひかりちゃんのことをじーっと見ました。そして、
「おや、この子は、なんだか人間のにおいがするような・・・」
と、鼻をくんくんさせながら、ひかりちゃんに近づいてきました。

「な、何をおっしゃるんです、郵便局長さん。仮装パーティで人間の娘になるために、人間用のオーデコロンをつけているだけですわ。オホホ」
と、ひかりちゃんは言うと、急いでテントウ虫のレインコートを着こみました。

「これはこれは、テントウ虫姫でしたか、失礼しました」
郵便局長さんは、ひかりちゃんに、きちんとあやまると、
「最近、ぶっそうなことが続いているので、ついつい疑い深くなってしまいましてな」
と言って、また、真っ白な眉毛を、悲しそうにひそめました。

「ぶっそうなこととは、何だ?お城では、そんな報告は受けていないぞ」
と、王子様が尋ねました。

 でもね、郵便局長さんは、
「いえいえ、大したことじゃありませんのじゃ。王子様もどうぞ気をつけて」
というと、背中を丸くして、郵便局の中に入っていってしまいました。

 いつの間にか、秋の村に夜が近づいていました。お日様は、最後の光を、湖に投げかけているところでした。日の王子とひかりちゃんの影が、長く長く伸びました。

 「日が暮れぬうちに行きましょう。日が暮れぬうちに行きましょう」
ミチアンナイが、せっかちに日の王子とひかりちゃんの頭の上を飛び回りました。

 長老の家は、秋の山のふもとにありました。20段の階段を五回上ったところに、ありました。階段を上がり始めたころには、お日様はすっかり隠れてしまい、あたりは薄暗くなっていました。階段の両側は森になっていて、真っ暗だったので、ひかりちゃんは、なるべくそっちの方を見ないようにしました。森の中から、何かが黄色い目を光らせて、ひかりちゃんを見ているような気がしたからです。

 森の向こうに目をやると、秋の村の小さな家々が見えました。どの家の窓からも、暖かいオレンジ色の光が漏れていました。煙突からは煙が立ちのぼっていて、どこからか野菜が煮えるにおいや、魚を焼くにおいが流れてきました。

 ひかりちゃんは、急におうちのことを思い出して、お母さんに会いたくなって、泣きそうになりました。でも、穂の姫を助けるという大事なお仕事があることを思い出して、うんとがんばって涙をひっこめました。

 うんうん、そうだよね。あおいちゃんもなつきちゃんも、ママに会えなくてもがんばってるんだよね。ひかりちゃんと、一緒だね。ひかりちゃんに、がんばれーって言おうか?せーの、フレッフレッ、ひかりちゃん、フレッフレッ、ひかりちゃん。

 それでね、20段の階段を五回上ったところにある、丸太を組み合わせて作った、長老の家の窓からも、暖かいオレンジ色の光がこぼれていました。煙突からは煙が立ちのぼっていて、何かを煮ているいいにおいもしてきたので、ひかりちゃんは、とってもほっとしたんだって。

 そしてね、日の王子が礼儀正しく、コンコンとノックをすると、丸太を組み合わせて作られた扉が、ぎぎぎって内側に開いたんだって。

 お部屋の中には、大きな暖炉があって、暖かそうな火が燃えていました。そして、暖炉の前には、大きな木のテーブルがあって、テーブルの上には、焼き立てのパンと、自家製のバターと木苺のジャム、それに、アツアツのポトフのお皿が4つ並んでいたんだって。

 ポトフっていうのはね、お野菜とベーコンをとろとろになるまで煮込んだ、とっても身体があたたまるお料理だよ。今度、あおいちゃんとなつきちゃんにも作ってあげようね。

 それでね、暖炉にいちばん近い席には、車椅子に座ったとってもお年寄のおじいさんがいました。その人が、長老のようでした。おじいさんは、膝の上に何枚も何枚も毛布を重ねていたので、毛布におぼれてしまいそうになっていました。

 夜になって少しは肌寒くなったといっても、これはやりすぎだろうって、ひかりちゃんは思ったけど、「お年寄りになると、身体があたたまるのに、うんとうんと時間がかかるんだよ」って、日の王子が教えてくれました。

 そうだね、だからあおいちゃんのおともだちのおじいちゃんやおばあちゃんにも、毛布をいっぱいかけてあげなくちゃね。

 それでね、日の王子とひかりちゃんが部屋に入ると、車椅子のおじいさんが、よぼよぼの手をぶるぶる震わせながら、ちょっとだけ動かしました。そしたらね、椅子がふたつ、「さあ、ここに座ってください」っていうように、さっとひかれたんだって。

 日の王子とひかりちゃんが、その椅子に座ると、空のコップになみなみと牛乳が注がれました。車椅子のおじいさんのコップには、赤ワインがほんの少し注がれました。

 ひかりちゃんは、誰がやってるんだろうと思って、キョロキョロしたけど、部屋には車椅子のおじいさんと日の王子とひかりちゃんの3人しかいなかったそうです。そしてね、

「あの・・・」
と、日の王子が言いかけたらね、どこからともなく、
「あたたかいうちに食べなさい、話はそれからじゃ。・・・と、長老が言っております」
という声が聞こえてきました。

 王子様は、
「わかりました。それでは、長老、いただきます」
と丁寧にあいさつをすると、とても上手にバターナイフを使って、パンにバターを塗り始めました。

 でも、ひかりちゃんは、どこから声が聞こえてくるのかが気になって、相変わらず、あたりをキョロキョロと見回していました。すると、
「食べなさいったら、食べなさい」
と言う声がまた聞こえてきて、テーブルの上の木のスプーンが勝手に浮き上がりました。そして、目を丸くしているひかりちゃんの目の前で、ポトフのお皿からアツアツのじゃがいもをひとつ取り出すと、無理やりひかりちゃんの口に入れようとしました。

「アッチッチッチチ。わかったわかった、食べます食べます、自分で食べます!」
ひかりちゃんは、あわててそう言うと、しょうがなく自分で食事を始めました。

 ひかりちゃんの目の前では、もう1つのスプーンがひとりでに浮き上がると、ポトフのスープをやさしくすくって、さますように空中でしばらく時間をおいたあと、そっと車椅子のおじいさんの口に、スープを運んでいるところでした。

 ゆうれい?そうだね、あおいちゃん、よくわかったね。
 その見えない声は、長老がこどもだった頃から、ずっとお世話係をしていた人の、ゆうれいの声だったんだって。

 ずっと長老のお世話係をしていたのに、長老より先に死んじゃったものだから、長老のことが心配で、ゆうれいになって毎日出てきて、長老のお世話をしているんだって。とっても、やさしいゆうれいだね。

 それでね、やさしいゆうれいはね、ひかりちゃんたちの食事が終わると、あたたかいスコーンと蜂蜜ティーをデザートに出してくれました。そして、やっと、
 「長老にお話しがあるのですね。私がお伝えしましょう。長老は耳も遠いし、声ももう出せないので、私が通訳する必要があるのです」
と言いました。

 そして、日の王子が、「穂の姫が、秋の国の長老に会いに行くと言って出ていったあと、連絡がとれなくなった」という話をすると、さっそく長老に伝えてくれたようでした。なぜ、わかったかというと、さっきまでにこにこしていた車椅子のおじいさんの顔が、悲しそうにくもったからです。

 どうして、長老は悲しい顔をしたんだろうね。そのお話は、明日にしようね。今日も、寒くなりそうだから、車椅子のおじいさんと同じくらい、ポカポカにして寝ようね。早く、春が来るといいのにねえ。タラターナ人さん、早く春を運んできてください。あおいちゃんとなつきちゃんが住んでいるところを、もっともっと暖かくしてください。
 それじゃあ、おやすみなさい。また、明日。


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