てぃーだブログ › 世界をHappyにするStoryを描こう › タラターナ 第1話 › 第10章 長い長いガラガラヘビの抜け殻
 あおいちゃん、なつきちゃん、今日は、動けないおじいちゃんやおばあちゃんのお見舞いに、一緒に行ってくれてありがとうね。おじいちゃんもおばあちゃんも、歯のないお口を大きく開けて、とっても喜んでたね。

 あおいちゃんやなつきちゃんみたいに小さい子は、そこにいるだけで、お年寄りを元気にする力があるんだよ。

 そしてね、おじいちゃんやおばあちゃんが、あおいちゃんやなつきちゃんのちっちゃな手を、しわしわの両手で、そーっと包んでいたでしょう。あおいちゃんやなつきちゃんのちっちゃくて、ふわふわで、あったかい手に触るだけで、おじいちゃんやおばあちゃんは、心がぽかぽかにあったまるんだよ。だから、また一緒にお見舞いにいってくれる?ありがとう。あおいちゃんも、なつきちゃんも、やさしい子だね。


 それじゃあ、お話しの続きを始めましょう。

 ひかりちゃんと、日の王子はね、ぎゅっと手をつないだまま、秋の山を登り始めました。地面には、秋の落ち葉がいっぱいに敷き詰められていたので、ときどき、濡れた葉っぱに足をとられて、すべりそうになりました。するどい葉っぱで、腕を切ってしまったり、毒々しい色をした虫に刺されそうになりながら、一歩一歩山を登っていきました。

 ひかりちゃんの頭の中の声は、ますます大きくなっていきました。

 途中で、ちょろちょろと流れる小川とぶつかりました。小川に沿って、上へ上へと登っていくと、苔むした小さな祠がありました。
 祠っていうのはね、神様やご先祖様をお祭りしてあるところだよ。
 祠の前に、小さくて深い池があって、そこが川の源になっていました。青い透明な水が、こぽこぽと音を立てて湧き出していました。そばには、小さな水汲み用のバケツが置いてあって、ついさっき誰かが使ったみたいに、濡れていました。こんな山奥まで、水を汲みにくる人がいるのでしょうか。

 山登りで疲れていたひかりちゃんと日の王子は、腹這いになって湧水をごくごく飲みました。甘くて美味しい水でした。

 ひかりちゃんたちは、そこでひとやすみして、お弁当を食べることにしました。木と木の間から、お日様の光がぽかぽかと差し込んで、鮭のおにぎりと、卵焼きと、から揚げと、ブロッコリーと、ウサギリンゴのお弁当を食べていると、まるで遠足に来ているような気分になりました。

 ひかりちゃんは、やさしいゆうれいが作ってくれたお弁当が、お母さんのお弁当とそっくりだっていう話をしたくてたまらなかったけれど、王子様に人間の子どもだということがばれてしまうといけないので、ぐっと我慢して黙っていました。

 ふたりは、お弁当をごはん粒ひとつ残らずきれいに食べ終えると、また腹這いになって湧水をごくごく飲みました。

 風が、さわさわと渡っていきました。王子様は、そばにあった木の枝から、まあるい葉っぱを1枚ちぎりとると、二本の指で唇に当てて、目を閉じました。すると、まあるい葉っぱから、不思議な音が流れてきました。王子様は、草笛を吹いているのです。楽しいような、懐かしいような、寂しいような不思議な曲でした。

「なんという曲ですか?」
と、ひかりちゃんが聞くと、王子様は、
「穂の姫の歌。いま、作った」
と言って、ごろりと横になりました。

 ひかりちゃんも、ちょっとお行儀が悪いかなと思ったけど、真似してごろりと横になりました。空の海が、キラキラと光っていました。ときどき、イルカのきょうだいが楽しそうにジャンプしているのが見えました。

 王子様は、寝転んで、また草笛を吹きました。
 ひかりちゃんは、王子様を励ましたくなったので、元気になりそうな歌を歌うことにしました。
 何を歌ったと思う?あのね、「かえるの合唱」を歌ったんだって。

「かえるのうたが きこえてくるよ 
グァ、グァ、グァ、グァ、ゲゲゲゲゲゲゲゲ、グァ、グァ、グァ」

そしたら、王子様がびっくりした顔でひかりちゃんを見て、ゲラゲラ笑いだしました。笑いながら、「もう一回歌ってみろ」というので、ひかりちゃんは、仕方なくもう一回歌いました。はい、あおいちゃんもご一緒に、

「かえるのうたが きこえてくるよ 
グァ、グァ、グァ、グァ、ゲゲゲゲゲゲゲゲ、グァ、グァ、グァ」

 王子様は、「そんな鳴き声のカエルはなんて聞いたことがない」と、お腹を抱えて笑っています。タラターナの国のカエルは、なんて鳴くんでしょうね。ひかりちゃんにもわからなかったけれど、王子様が大笑いして元気になったみたいなので、まあいいかと思いました。王子様の笑い声を聞いているうちに、ひかりちゃんも楽しくなってきて、一緒にゲラゲラ笑いました。

 ひとしきり笑うと、ひかりちゃんと日の王子は、どちらからともなく目を合わせて、にっこり微笑みました。さあ、そろそろ出発の時間です。

 ところが、ここから先は、それまでの道よりも、もっと大変でした。いままでは、木の幹や木の枝をつかみながら進むことができたのに、だんだん木がなくなってきて、ごろごろとした岩ばかりになってきました。いくつかの岩は、とても不安定に地面に乗っかっていて、うっかりそれを踏もうものなら、ごろんと転がって、岩と一緒に山を転げ落ちていきそうになりました。

 ごろごろ道を、転びそうになりながら歩いていくと、今度は、切り立った崖にぶつかってしまいました。ひかりちゃんは、その崖を見上げたとき、「いままでがんばって、なんとかここまで来たけど、この崖は、無理!」と思って、泣きそうになりました。

 だってね、その崖は、まるでひかりちゃんの小学校の校舎くらいに高かったんだって。
 そうだよ。あおいちゃんの幼稚園は、2階建てでしょ?でも、ひかりちゃんも小学校は、4階建てだったから、もっともっと高かったんだよ。

 ところが、日の王子は、なんでもないみたいに、きれいなエメラルド色の両手両足を、崖のわずかなくぼみにかけて、ひょいひょいひょいと登っていきました。ひかりちゃんが、思わず、
「王子様、すごい!」
と言うと、王子様は、登りながら、照れたように、
「まあね、きたえてるからね」
と言いました。

 ひかりちゃんは、「あっ!」と思って、
「王子様、きたえてるって、あの、もしかして、逆上がりの練習とかもしてるんですか?」
と、聞きました。でも、崖を登っている王子様には聞こえないようでした。

 日の王子の姿が、だんだん高く小さくなってきました。ときどき、小さな石が、カラカラカラと落ちてきて、ひかりちゃんをハラハラさせました。ひかりちゃんは、今度ばかりは王子様についていく気にはなれず、崖の下から、王子様を見上げているだけでした。

 やがて、日の王子は、崖の向こうに見えなくなりました。この高い高い崖を、とうとう登り切ったのです。ひかりちゃんは、どうすればいいのでしょう?まさか、王子様と同じようにして、登ってこいというのでしょうか。そんなの、いくらなんでも無理!ひかりちゃんが、また泣きそうになったとき、王子様の、
「見つけた!」
という声が小さく聞こえてきました。

 そして、崖の上から、スルスルスルと、何か紐のようなものが降りてきました。よく見ると、それは、なんと、カラカラにひからびた、長い長いガラガラヘビの抜け殻でした。

「ひぃ~え~~~っ!」
ひかりちゃんは、思わず叫んで逃げ出しそうになりました。王子様は、崖の上から顔を出して、
「何をしてるんだ、早くそれにつかまって!」
と、どなりました。

「で、でも、こんな抜け殻、途中で切れちゃうんじゃ・・・」
「何を言ってるんだ、テントウ虫姫。タラターナ国のガラガラヘビの抜け殻は、空から船を吊るせるくらいに強いものだってことを、忘れたのか?テントウ虫姫だって、船旅のときに見て知っているだろう?」
と、王子様は不思議そうな声で言いました。

 ひかりちゃんは、船旅とか船のことなんて全然知らなかったけれど、そう言うわけにもいかないので、仕方なく、ぎゅっと目をつぶって、ガラガラヘビの抜け殻を、両手で持ちました。

 抜け殻は、ひんやりしていて、小さなウロコのようなものがいっぱいついていて、とても不気味だったので、ひかりちゃんは、思わず手をはなしそうになりました。でも、ここで王子様とはぐれてしまうわけにはいかないので、「これは、へびじゃない。これは、ただの綱だ。運動会の綱引きで引っ張った綱なんだ」と自分に言い聞かせました。

「しっかり、持ったか?よぉし、ひきあげるぞ。よいしょ、よいしょ」
王子様が、ひかりちゃんを引っ張り上げてくれました。ひかりちゃんは、目をぎゅっとつぶったまま、ガラガラヘビの抜け殻をしっかり握って、切り立った崖に足をかけて、一歩一歩のぼっていきました。そして、ひかりちゃんが、5回目に
「もうだめだ。手も痛いし、目もつぶっていられないし、足もすべるし、もういますぐにでも、ここから落っこちちゃうに違いない」
と思ったとき、王子様が、
「よぉし、到着だ」
と、ひかりちゃんを抱きかかえるようにして、崖の上に引っ張り上げてくれました。とうとう、崖を登りきることができたのです。

やったぁ!

 ひかりちゃんが、ようやく目をあけると、王子様は、汗びっしょりの顔をして、両手にふうふうと息をふきかけているところでした。王子様の手は、皮がむけて、真っ赤にはれあがっていました。

「王子様、あの、引っ張ってくれて、ありがとうございました」

ひかりちゃんが、小さな声でお礼を言うと、日の王子は、

「ちぇっ」

と言いながら、向こうを向いてしまいました。そうだね。きっと、照れていたんだね。あおいちゃんは、そんなこともわかるの。おませさんだねえ。

 それでね、王子様は、ガラガラヘビの抜け殻をくるくると巻いて、腕に掛けると、そのまま歩き出しました。ひかりちゃんも、急いで追いかけていきました。そこから、秋の山のてっぺんまでは、もうすぐそこでした。王子様は、だんだん急ぎ足になって、最後は走り出しました。穂の姫のことが、心配でたまらなかったからです。

 秋の山のてっぺんには、赤や黄や橙色に色づいた葉をいっぱいに繁らせた、大きな大きな木が1本だけ立っていました。そこについたときには、お日様がもう傾き始めていました。風が強く吹いて、しっかり立っていないと倒されそうでした。てっぺんの木の葉たちが、一斉にざわざわざわと揺れました。

 木の横に立って、あたりをぐるりと見渡した王子様は、ひとつ溜息をつくと、
「さて、秋の山のてっぺんに着いた」
と、言いました。

「それなのに、穂の姫はいない」

王子様は、悲しそうな顔で、ひかりちゃんをじっと見ました。

「で、でも、本当にこっちの方から声が聞こえたんです」

ひかりちゃんは、焦って言いました。

「でも、いないじゃないか!僕をだましたのか!」

王子様が、怒っていいました。また、日の王子の怒りんぼ虫が顔を出したのです。

「ち、違います。ちょっと待って」

ひかりちゃんは、だましたなんて言われて、泣きそうになりました。そして、もう一度、声がする方向をたしかめようと、目を閉じて、耳を澄ませました。声は、前よりも、もっともっと大きく、はっきりと聞こえるようになっていました。穂の姫のところに近づいているのは、間違いありません。

「あ、あっちです。あっちから、声が聞こえてきます」
ひかりちゃんは、秋の山のてっぺんのその向こうを指さしました。

 そこは、深い深い谷になっていました。谷のほうからは、身体がぞくぞくするような冷たい風が、ひゅるるる、ひゅるるると吹き上げてきていました。森のにおいに混じって、なにやら獣のようなにおいがしました。谷は、遠くにうっすらと見える冬の山のところまで続いていました。冬の山に近いところには、雪が積もっているようでした。

「あっちだと?テントウ虫姫が指さしているのは、魔物が住んでいると言われている秋冬の谷ではないか。あんなところに降りて行ったら、命はないと・・・」

そのとき、秋冬の谷の黒々とした底の方で、何かがチカリと光りました。

 王子様とひかりちゃんが、光った場所をじっと見つめていると、さっきとは違う場所で、また何かがチカリと光りました。

「何かが動いてる!穂の姫かもしれません!」

ひかりちゃんは、嬉しくなって、怖いのも忘れて、谷に降りていこうとしました。

「ま、待て。足を踏み外したら危険だ」

王子様は、そう言うと、秋の山のてっぺんの木に、ガラガラヘビの抜け殻の端を、しっかりと結びつけました。そして、
「まず、僕が行って様子を見てみるから、テントウ虫姫は、ここで待っていなさい」
と、いばって言うと、ガラガラヘビの抜け殻のもうひとつの端を、自分の身体に巻きつけました。ところが、王子様の結び方は、木に結んだほうも、王子様の身体に結んだほうも、蝶結びでした。これでは、すぐにほどけてしまって危険です。ひかりちゃんは、
「王子様、ちょっと待ってください」
と言うと、結び目をほどいて、帆船結びに結びなおしました。

 帆船結びっていうのはね、船の帆を取り付けるときに使う、とってもほどけにくいロープの結び方だよ。ひかりちゃんはね、ひかりちゃんのお父さん、熊本のおじいちゃんだよ、と一緒に、しょっちゅうキャンプに行っていたから、ロープを結ぶのは得意なのでした。

 王子様は、ひかりちゃんが器用に帆船結びをするのを見て、ちょっと見直したような顔で、ひかりちゃんを見ました。

 あおいちゃんと、なつきちゃんは、キャンプに行ったことある?そっか、まだないか。あのね、キャンプに行ったらね、テントの中で寝るんだよ。そしてね、たき火を焚いて、はんごうっていうので、ごはんを炊くんだよ。半分くらいこげちゃったりするけど、そのおこげも美味しいんだよ。もっと暖かくなったら、一緒に行こうね。おばちゃんだって、小さいときは、熊本のおじいちゃんや、あなたたちのママと一緒にしょっちゅうキャンプに行ってたから、帆船結びだってできるよ。あおいちゃんにも、教えてあげるね。それじゃあ、今日のお話しはここまでね。おやすみなさい。


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