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2011年08月06日

第8章 ベール泥棒

 なつきちゃん、お熱が下がってよかったねえ。様子を見に来てくれた看護師さんも、なつきちゃんは、こんなに寒いのに風邪を治しちゃうなんて、強い子だって言ってたよ。

 あおいちゃんも、はやくお咳が治るといいね。お咳のお薬、もう少しで届くそうだから、がんばろうね。そうだよね、ひかりちゃんだって、タラターナの国でがんばってるから、あおいちゃんだって、がんばるんだよね。あおいちゃんは、ほんとにえらいね。

 え~っと、昨日はどこまで話したっけ。そうそう、ひかりちゃんが、長老の家でポトフの夕食と、スコーンのデザートをごちそうになったところまでだったね。
 そのあと、やさしいゆうれいが通訳してくれた長老の話は、こんなふうでした。


3 日前、たしかに穂の姫は、長老のところにやってきました。そして、長老に、「お米がいっぱいとれるようにするには、どうしたらいいですか」って聞いたんだって。

 そしたらね、長老は「どうすることもできない」って言ったんだって。そして、「これからは、ますます、お米がとれなくなるだろう」って言ったんだって。

 お米がとれなくなったら、なつきちゃんが、大好きなおにぎりを食べられなくなって困るよね。あおいちゃんだって、大好きなおせんべいが食べられなくなっちゃうし、おばちゃんだって、大好きな日本酒が飲めなくなって、困っちゃうよ。

 穂の姫も、そう思ったんだって。だからね、
「どうしてですか。どうして、これからは、ますますお米がとれなくなるんですか」
って聞いたんだって。

 そしたらね、長老が、大変なことを教えてくれました。秋の村の人たちが一生懸命作っているベールが、何者かに盗まれているというのです。

 赤とんぼの羽と、朝露で濡れた蜘蛛の巣と、山芋のネバネバと、人間の国から拝借してきた綿菓子のフワフワで作ったベールは、人間の国に持っていく前に、29日と半分の間、村の広場でしっかり風を当てて乾かさないと、くしゅくしゅに縮んで使い物にならなくなってしまうんだって。

 ところが、ある月のない夜に、山の方からドシンドシンっていう、心が凍りつきそうなくらい恐ろしい足音が聞こえてきて、次の日に行ってみたら、広場いっぱいに広げて干してあったはずのベールが、なくなっていたんだそうです。そして、そのあとも、月のない夜になると、その恐ろしい足音が聞こえてきて、ベールが盗まれるようになってしまったんだって。

 え?ベールを、どこか別のところに隠せばいいじゃないって?そうだよね。でもね、大きな大きなベールを広げて干せるような場所は、村の広場以外にはなかったのだそうです。

 ベールを人間の国に届けることができなくなってしまったので、人間の国は、どんどん暑くなっていきました。このまま、ベールが届けられないと、もっともっと暑くなってしまうでしょう。

 そしたら、お米だってどんどんとれなくなっていくし、あおいちゃんが大好きなパンを作る小麦だって、果物だって、お野菜だって、どんどんとれなくなってしまうよね。

 だけど、あんまりドシンドシンっていう足音が怖いものだから、村の人たちは誰も、ベール泥棒をやっつけようとしなかったんだって。

 ううん、一回だけ、村の勇敢な若者たちが、怪物をやっつけようと、広場の近くで待ち伏せをしたことがありました。だけど、山から下りてきた黒い影があまりにも大きくて、あまりにも不気味だったので、若者たちは、我先にと逃げ帰ってしまったそうです。そして、それからは誰も、怪物をやっつけようとは言わなくなったそうです。

「そんなことが、あったなんて・・・」
と、日の王子が、辛そうな声で言いました。

「どうして、国王に知らせてくれなかったのですか。わかっていれば、すぐにたくさんの兵士を連れて、助けに来たのに」
王子様は、とても悔しそうでした。

 でもね、秋の村の人たちは、あんまりその怪物が恐ろしかったものだから、王様に知らせたりしたら、「告げ口したな」って怪物を怒らせてしまうかもしれない、そしたら、村をめちゃくちゃにされてしまうかもしれないと思って、言えなかったんだって。

 その話を聞いた穂の姫は、静かに
「わかりました、私が怪物と会って、話をしてみます」
と言ったそうです。勇気があるよね。でも、とても危険なことだよね。だから、穂の姫が、心配で心配でたまらない日の王子は、
「そんな危険なこと・・・どうして止めてくださらなかったんですか」
って、思わず長老の肩をゆすぶってしまいました。

 長老は、悲しそうな顔をして、肩をガクガクとゆすられるままになっていました。やさしいゆうれいが、見るに見かねて、王子様の手をそっととめました。そして、
「おやめください、王子様。私も、長老も、何度も何度も止めたのですよ。せめて、お兄様に相談してからにしなさいとも言ったのですよ。穂の姫も、最初はそうしますと言っていたのですが・・・」
と、言いました。

 そのとき、壁にかけられたカレンダーが、風もないのに、かさりと揺れました。タラターナの国のカレンダーは、人間の国のカレンダーとは違っていて、月のない夜から、月が少しずつ大きくなって、満月になって、まただんだん小さくなって、とうとうまた真っ暗な夜になるまでを、1カ月と数えるようになっていました。ですから、人間の1か月は、大体30日か31日なんだけど、タラターナの国の1カ月は、29日と半分なんだって。

 それでね、穂の姫が長老を訪ねた日が、ちょうど「新月」っていう、月がない夜に当たっていたんだって。もし、その日に怪物に会えないと、次に会えるのは、29日と半分を過ぎてからになるでしょう?「それだと、遅すぎる」って、穂の姫は思ったんだって。それで、その日のうちに、怪物に会うために、ひとりで出かけていったそうです。

「そんな・・・ひとりでなんて。どうして、一緒に行ってくれなかったんですか」
王子様は、こぶしをブルブル震わせながら言いました。

「本当に申し訳ありません。しかし、長老は、このとおりご高齢ですし、私はこんな姿ですから、何の役にも立ちませんし・・・」
と、やさしいゆうれいは、本当に申し訳なさそうな声で言いました。

 王子様は、腹が立つやら心配やらで、床を蹴飛ばしながら、部屋の中を歩き回っています。ひかりちゃんは、「こんなときこそ、私が落ち着かなくちゃ」と思って、大きくひとつ深呼吸をすると、
「それで、穂の姫は、どこに行ったんですか?」
と、聞きました。

「それが、勢いよく飛び出して行ってしまったので、どこに行ったかわからないのです」
と、やさしいゆうれいが、しょんぼり答えました。

「わからないって」
と、また王子様が怒りそうになったとき、
「ただ・・・」
と、やさしいゆうれいが続けて言いました。

「ただ、穂の姫さまが出て行った日の夜から、不思議なことが起こるようになりました。どこからか、恐ろしい声が聞こえてくるようになったのです。ほら、いまも・・・」
 ひかりちゃんと、日の王子は、耳を澄ませました。

 あおいちゃんも、耳を澄ませて聞いてごらん、何か聞こえる?ウォーン、ウォーンって?ほんとう?怖いねぇ。怖いから、今日のお話しは、ここまでにしようか。え?あおいちゃんは、怖くないの?強いなあ。おばちゃんは、怖いよ。

お ばちゃん、怖い夢を見ないように、楽しいことを考えながら寝ようっと。何がいいかな?舞踏会のこと?そうだね、じゃあ、あおいちゃんだったら、どんなドレスで踊るか考えながら寝ようか。宝石がいっぱいついているドレスがいい?タラターナの国のお妃様のショールみたいに、見るたびに色が変わるドレスも素敵だねえ。髪には、ダイヤモンドのついたティアラをつけて、イヤリングと指輪とネックレスもつけて、ドレスによく合うハンドバッグを持って、夢の中の舞踏会に行ってらっしゃいませ、あおい姫様。なつき姫様も、行ってらっしゃいませ。おやすみなさい、また、明日。


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