てぃーだブログ › 世界をHappyにするStoryを描こう › タラターナ 第1話 › 第13章 ひねくれモグラ
 ねえ、あおいちゃん、知ってる?今日、お外に出てみたら、きれいな梅の花が咲いていたよ。

 梅の花が咲いたっていうことは、もうすぐ春が来るっていうことだよ。あなたたちのママや、おばちゃんが生まれ育った熊本では、2月の終わりくらいに梅の花が咲いていたけど、このへんでは3月の終わりになってやっと咲くんだねえ。きっと、梅の花を咲かせるタラターナ人が、順番に咲かせていくんだね。幼稚園が始まる頃には、桜も咲き始めるかなあ。春になるのが、待ち遠しいね。

 さあ、それじゃあ、今日も、お話しの続きをしましょうね。

 穂の姫の話を聞いたひかりちゃんと日の王子は、さっそくベールづくりを手伝うことにしました。まずは、材料集めからです。

 ベールづくりに使う赤とんぼの羽は、どこにあると思う?ひかりちゃんと日の王子が、秋の村に行くときに、赤とんぼがいっぱい飛んでる湖のところを通ったでしょう。あの湖の上には、いつも東から西に風が吹いていて、抜け落ちた赤とんぼの羽は、全部西の吹き溜まりのところに集まっているんだって。吹き溜まりっていうのはね、羽とか落ち葉とかが、風に吹かれて集まっている場所のことだよ。だから、そこに拾いに行かなければならないんだって。

 それから、朝露で濡れた蜘蛛の巣、これはね、長老の家に行く階段の両側に森があったでしょ。あそこでとれるんだって。

 それから、山芋。これはねえ、秋の村の人たちが畑で作っているものをもらってくるそうです。

 人間の国の綿菓子は、人間の国から拝借してきます。でも、どこにでもあるわけじゃなくて、お祭りをやっているところでしか見つからないから、探すのが大変です。

 そして、秋の山の水源の水。これは、ひかりちゃんと日の王子が、お弁当休憩をしたところの水だよね。
 つまり、どれも、秋冬の谷からは、とってもとっても遠いところまで行かないと、手に入らないものばかりです。それなのに、穂の姫は、もう2ヒロゲ分の材料は集め終わって、きれいな糸に仕立て上げていました。穂の姫が作ったベール糸は、ほんの一瞬だけ谷に差し込む夕日を受けて、チカリ、チカリと薄ピンク色に光りました。この糸の光が、秋の山のてっぺんから見えていたんだね。

 だけど、穂の姫は、どうやって、たった一人で、これだけの材料を集めることができたのでしょう?どうやって、こんな谷底で、糸つくり器を手に入れることができたのでしょう?

「それは、ひねくれモグラのおかげだなんてことは、まったくありませんのよ」
 突然、穂の姫が、変なことを言い出しました。

「ひね・・・なんだって?」
王子様が、びっくりして聞きました。

「ひねくれモグラが、材料集めの邪魔ばかりするものだから、ちっとも仕事がはかどらなくて、困っていますの」
と、穂の姫が言いました。日の王子は、
「なに?穂の姫の邪魔をするなんて、けしからんやつだ。その、ひねくれモグラとやらは、どこにいるんだ?僕が、とっちめてやろう」
と、怒っていいました。

 穂の姫は、くるりと秋の山に背を向けると、
「どこにいるかはわかりませんが、秋の山の斜面のしめった葉の下にいるなんてことだけは、絶対ありませんわ」
と、澄まして言いました。

 そのとき、秋の山の斜面のしめった葉の下から、「くすくす」という小さな笑い声が聞こえました。日の王子と、ひかりちゃんは、思わず顔を見合わせました。

 穂の姫は、続けて、
「ひねくれモグラは、とても恐ろしい牙と爪を持っていて、タラターナ人の前には、絶対姿をあらわしませんの」
と、言いました。

 秋の山の斜面のしめった葉がカサコソと動いて、べったりと黒く濡れた毛皮を着た、小さな生き物が、おどおどと這い出してきました。

 日の王子とひかりちゃんは、もっとよく見たかったけど、我慢して、全然違うところを見ているフリをしながら、横目で、ひねくらモグラを観察しました。

穂の姫が、
「ひねくれモグラは、姿は恐ろしいくせに、とても臆病なので、タラターナ人に近づくなんてことは、絶対にしませんのよ」
と言うと、ひねくれモグラは、小さな目でキョトキョトとあたりをうかがいながら、よたよたと日の王子に近づいてきて、王子のエメラルド色の足を、ぺろりと舐めました。

「ひゃ~~~、いま、何かが僕の足を舐めた!怪物だ!怪物に違いない!」
王子様が、おおげさに騒ぐと、ひねくれモグラは、急いで秋の山の斜面のしめった葉の下に逃げ戻って、また小さく「くすくす」と笑いました。

 ひかりちゃんは、ひねくれモグラの性質がわかってきたので、わざと、
「穂の姫様、ひねくれモグラが、ベールの材料集めの役に立つなんてことは、絶対にありませんよね?」
と聞きました。

 穂の姫も、それに合わせて、
「もちろんですわ。秋の山の水源に行く近道なんて、ひねくれモグラが知ってるわけがありませんわよ」
と答えました。

 すると、ひねくれモグラが、また、カサコソと葉の下から這い出してきました。そして、フンフンとあたりを嗅ぎまわっていたかと思うと、急に毬のように駆け出しました。

「追いかけて!」
と、穂の姫が、小さな声で言いました。3人は、ひねくれモグラを追いかけて、走りました。

 穂の姫は、走りながら、バケツを、ひかりちゃんと日の王子にそれぞれ2つずつ渡しました。もちろん、自分も2つ持っています。まったく、このお姫様は、いつの間にか、こんな谷底に、必要なものはすべて揃えてしまったようです。

 ひねくれモグラは、秋の山の斜面をぐるりと駆け回ると、ほんの少し水がしみ出しているところを見つけて、急ブレーキをかけました。そして、その上の土をすごいスピードで掘り始めました。あっという間に、秋の山の斜面に小さなトンネルができました。

 トンネルがきれいにできあがると、ひねくれモグラは気が済んだように、近くの葉っぱの下に、コソコソと隠れてしまいました。

 ひねくれモグラが、すっかり姿を隠したのを見届けると、穂の姫は、
「ついてきて」
と言って、トンネルの中に入っていきました。

 トンネルの中は、外より暖かく、湿った空気が流れていました。出口から見える光が、小さく小さく見えました。穂の姫は、トンネルを歩きながら、ひねくれモグラのことを、話してくれました。

 秋冬の谷に住んでいるひねくれモグラはね、ミチアンナイと違って、見えないところをにおいで探し当てて、道を作ってくれるんだって。それともうひとつ、これが一番ミチアンナイと違うところなんだけど、「連れていって」って言うと絶対に連れていってくれないのだそうです。だから、ひねくれモグラに仕事をさせるのは、とても難しいのです。

 だけど、穂の姫は、大変賢いので、秋冬の谷で出会ってすぐに、ひねくれモグラの性質を見破って、ベールの材料集めに協力させていたのです。もちろん、ひねくれモグラは、協力しているのではなく、邪魔をしているつもりだったんですけどね。

 そんなことを話しているうちに、だんだん出口の光が大きくなってきました。そして、ぽんっと3人が飛び出したところは、なんと、あの水源のある祠でした。ひかりちゃんたちは、ここからゴロゴロ道を超えて、高い高い崖を登って、秋の山のてっぺんの木のところまで行って、それから深い深い秋冬の谷まで斜面を降りて、大変な苦労をして穂の姫のところにたどり着いたのに、トンネルを抜けると、あっという間に戻ることができてしまったのです。

「なんと、まあ、これは便利なものだ」
と、王子様が、つくづく感心したように言いました。

すると、穂の姫が、
「あっ、いけないっ!」
と叫んで、いま出てきたばかりのトンネルを振り返りました。

突然、トンネルの上から、大きな土のかたまりがバラバラと落ちてきて、出口をふさぎ始めました。このままでは、帰れなくなってしまいます。

 穂の姫は、大きな声で、
「ああ、なんて役立たずのトンネルでしょう」
と、言いました。そして、日の王子とひかりちゃんにも、「早く!」と、小さな声で言いました。日の王子と、ひかりちゃんは、慌てて、
「まったく、行きたいところになんて、行けやしない」
「おまけに、すぐに出口がふさがってしまうし」
と、トンネルの悪口を一生懸命言いました。

 やがて、ばらばらと落ちてきていた土のかたまりが、少しずつ少なくなっていきました。どうやら、ひねくれモグラが掘ったトンネルなので、トンネルまでもひねくれているようです。ほめたりしたら、何をしでかすかわかりません。

「お兄様、くれぐれも気をつけてくださいね」
と、穂の姫が言いました。日の王子が、
「ごめん、ごめん」
と、頭をかきました。

 ひねくれトンネルがひねくれるのは、ほめられたときだけではありませんでした。一回掘ったトンネルは、そのままにしておけば何回でも使えて都合がいいのに、どういうわけか、毎日毎日、お日様の最後の一筋が消えるとき、すべてのトンネルがふさがってしまうのだそうです。ですから、毎日、朝になるたびに、ひねくれモグラを見つけ出して、またトンネルを掘らせなければならないのです。やれやれ、面倒なことですね。

 ところで、いまは何時くらいだったかというと・・・そうです、そろそろ、タラターナの国に、ひかりちゃんが迷い込んでから2回目の夜が訪れようとしていました。お日様は、もうだいぶ姿を隠していました。3人は、慌ててそれぞれのバケツに水を汲んで、急ぎ足でトンネルを戻りました。3人が、秋冬の谷に戻って、やれやれとバケツを置いたとき、お日様の最後の一筋が消えて、あたりが夕焼けで赤く染まりました。

 ふと振り返って見ると、いま出てきたばかりのトンネルは、いつの間にか土でふさがれて、山の斜面の他の部分と区別がつかなくなっていました。ひかりちゃんは、トンネルの中でぐずぐずしているうちに、お日様が沈んでしまったら、一体どうなっていたんだろうと、ドキドキしました。

 でも、ひとりで何度もトンネルを往復したことがある穂の姫は、トンネルが消えてなくなったことなんて、まったく気にしないふうで、
 「1,2,3,4,5,6」
と、水を汲んできたバケツの数を数えました。

「ベール糸を1ヒロゲ分作るのに、必要な水は、バケツに10杯。作らなければならないベール糸は、あと2ヒロゲ分。ということは、あと何杯バケツの水があればいいかというと・・・」

穂の姫と、日の王子が、う~んと眉をしかめて、考え込みました。

「2ヒロゲ分作るのに必要な水は、10たす10で、20杯。
 いまここに、6杯分の水があるから、20ひく6で、あと14杯あればいい!」
ひかりちゃんがスラスラと答えると、日の王子と穂の姫が、大変感心したように、「やはり、テントウ虫姫は違うな」「テントウ虫姫がいてくれて助かった」と口々にほめてくれました。ひかりちゃんは、またまた、とってもいい気分になりました。

「あと14杯ですって!いまだって、あっという間に6杯持ってこれたのですから、14杯だって、きっとあっという間ですわ。
湖の西の吹き溜まりに行くトンネルも、長老の森に行くトンネルも、山芋の畑に行くトンネルも、人間の国のお祭りをやっているところにつながるトンネルだって、毎日、ひねくれモグラが作ってくれます。ですから、お兄様と私で集めれば、明日にでも材料が揃って、あと2ヒロゲ分のベール糸を作ることができるはずですわ」
と、穂の姫が、嬉しそうに言いました。

 でも、日の王子と穂の姫が、材料集めをしたり、糸を作ったりするのなら、ひかりちゃんは、何をすればいいのでしょう。ひかりちゃんは、まだ小さいから、何の役にも立たないのでしょうか。そうだよね。ひかりちゃんだって、いま一生懸命バケツ2杯の水を汲んできたのにね。どうして、仲間に入れてくれないんだろうね。

 もしかして、穂の姫を見つけたことで、「人間のこどもの仕事」は終わったのかもしれないな。だったら、ひねくれモグラにうまく頼んで、家に帰るトンネルを掘ってもらっちゃおうかな・・・ひかりちゃんが、そんなことを考えていたときです。

 穂の姫が、くるりとひかりちゃんの方を向いて、
「テントウ虫姫には、とても大切な仕事を頼みたいのです」
と、言いました。

 どんな仕事だと思う?あのね。日の王子と、穂の姫が作った糸を使って、ベールを編む仕事なんだって。
 本当は、それはお母さん鬼の仕事なんだけど、お母さん鬼は、とってもぶきっちょなものだから、ちっとも進まなくて困ってるんだって。

 だけど、あと4ヒロゲ、ベールを編まないと、お母さん鬼も赤ちゃんのところに帰れないし、日の王子や穂の姫もお城に帰れないでしょ。だから、ひかりちゃんにも手伝ってほしいんだって。でも、どうやって編めばいいんだろうね。

 おや、お日様が沈んだら、あのグオォ、グオォといういびきが聞こえなくなったよ。どうやら、お母さん鬼が目を覚ましたようです。

 お母さん鬼が起きる時間は、あおいちゃんとなつきちゃんが眠る時間だね。ああ、なつきちゃん、大あくびだね。日の王子と穂の姫とひかりちゃんも、暗くなったら急に眠くなってきたんだって。だから、続きは明日お話ししようね。はい、おやすみなさい。


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