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第6章 秋の村のベールづくり

 なつきちゃんのお熱、なかなか下がらないね。かわいそうに。あおいちゃんは、どう?コンコンってお咳が苦しいね。

 でもね、病院は、いま、お怪我をした人や、あおいちゃんやなつきちゃんよりもっと重い病気の人で、満員なんだって。だから、お医者さんに行かないで、がんばって風邪を治そうね。だけど、あおいちゃんとなつきちゃんなら、大丈夫。強いから、きっとお風邪なんて、すぐにやっつけられるよ。

 ううん、病気は、タラターナの国の人が持ってくるんじゃないよ。病気になったり、元気になったりするのはね、また別の国の人たちの係なんだよ。その国のお話も、タラターナの国のお話が終わったらしてあげようね。今日は、穂の姫を助けに行くお話の続きをしますよ。はじまり、はじまり。

 穂の姫はね、「ちょっと行ってくる」って言って、どこに行ったかというとね、秋の村に行ったんだって。

 どうしてかというと、その前の年の夏が、とってもとっても暑かったからです。夏が暑かった次の年には、お米がとれなくなっちゃうことが多いんだって。でもね、人間は、お米が大好きでしょ。

 あら、あおいちゃんは、パンの方が好きなの?なつきちゃんは?そう、おにぎりが大好きなの。じゃあ、なつきちゃんが食べるおにぎりのお米がなくなっちゃうと困るでしょ。

 だからね、穂の姫は、お米がいっぱいとれるようにするにはどうしたらいいか教えてもらうために、秋の村の長老に会いに行ったんだって。そして、そのまま、連絡がとれなくなってしまったんだって。

「きっと、悪い奴につかまったに違いない!助けに行かなくちゃ!」

と、日の王子は言いました。そして、

「テントウ虫姫は、もう帰ってよろしい」

って、いばって言いました。

でも、ひかりちゃんは、穂の姫を助けるために、タラターナ国に来たのですから、そういうわけにはいきません。

「王子様、私もおともいたします」

と言うと、王子様はむっとした顔をして、

「秋の村に行くのは、まだ早すぎる。キミは、まだほんの子どもじゃないか」

と言いました。

 そうだよね、王子様だって、まだ子どもなのにね。

 ひかりちゃんは、ぷっと頬をふくらませると、

「まあ、王子様、それは失礼じゃありませんか。秋の村に行ったら、穂の姫を助けるために、きっと私の力が必要になるはずです。それに、第一、穂の姫の声は、私にしか聞こえないのですよ。どうやって、日の王子ひとりで、助けにいくんですか?」

と、言いました。

 王子様は、ひかりちゃんを、上から下までじろじろ見ると、

「それはそうだけど、でも、足手まといになりそうだからなあ」

と、つぶやきました。ひかりちゃんは、きーっと怒って、

「連れていかないなら、王様とお妃様に、このことを言いつけますからね!」

と、言いました。

「ちょっと待って。それはダメだよ。母上は、穂の姫を心配するあまり、熱を出してしまったし、父上は、そんな母上を心配して、これまた熱を出しているんだ。これ以上、心配をかけるわけにはいかないよ!」

と、王子様が言いました。

 そうだね、お熱、なつきちゃんと一緒だね。

「じゃあ、私も一緒に連れていってくれますね?」

と、ひかりちゃんがにっこり笑って言うと、王子様は、

「ちぇっ、ちぇっ、しょうがないな」

と、言いました。そして、四つの扉のうちの、桜色の扉の向かい側、茜色の扉の方にどんどん歩いていきました。

 茜色っていうのはね、果物の柿、食べたことある?ないか。じゃあね、そうだ、夕焼けの色が、茜色だよ。

 それでね、茜色の扉を開けたらね、扉の向こうは、王子様たちの寝室でした。どうして寝室だってわかったかというと、ふわふわでふかふかの大きな雲が四つ浮かんでいたからです。そして、その上には、1つの雲に1つずつ、軽くて暖かそうな、カエルの柄の羽毛布団が畳んで置かれていたからです。もちろん、お布団と同じ柄の羽毛枕も、セットで置いてあったそうですよ。

【第6章 秋の村のベールづくり】



 日の王子は、お行儀悪く、ポンポンポンとその雲の上を飛んでいきました。ひかりちゃんは、いつも「お布団の上で遊んではいけません」ってお母さんに叱られていたので、どうしようかなあと思ったけど、ここで王子様とはぐれてしまっては困るので、慌てて、ポンポンポンと雲を飛んで、王子様についていきました。

 4つめの雲を飛んだところに、お城に入ってきたときと同じ、深緑色をした特別がんじょうな石の扉がありました。その扉を開けると、そこはもうお外でした。お日様がぽかぽかとふたりを照らしました。王子様が「う~ん」と気持ちよさそうに、伸びをしました。ひかりちゃんも、真似をして、「う~ん」って伸びをしました。

 あおいちゃんも、やってごらん。せーの、「う~ん」。あらあら、お咳が出ちゃったね。ごめんごめん。お水を飲んで。もう、大丈夫?

 扉の前には、紳士のバッタ・・・じゃなくて、こちらには紳士のコオロギが2人立っていて、突然王子様が出てきたものだから、びっくりして、羽をすりあわせて、「ヒロロロロ」「ヒロロロロ」って鳴いたんだって。

 王子様は、そんなことには構わずに、ピーッと指笛を鳴らしました。すると、どこからか、あのミチアンナイが飛んできて、王子様の足元に、さっと降り立ちました。

「はっ、日の王子、何か御用でございますか」

「秋の村の長老のところに、案内せよ」

 こういうとき、おこりんぼの王子様は、いかにも位の高い人のように見えました。

 ミチアンナイは、「はっ」とおじぎをすると、王子様の頭の上を高く高く飛び上がりました。

 そして、何かを探すように、お城の上を大きく3回まわると、また王子様の足元に戻ってきました。そして、

「日の王子、こちらへどうぞ」

と言うと、少し飛んで、王子様とひかりちゃんを振り返りました。

 こうして、王子様とひかりちゃんは、「タラターナ城 秋の門」を出て、秋の村に向かい始めたのです。

 秋の村は、大きな湖をぐるりと回ったところにありました。日の王子とひかりちゃんは、湖のほとりを、てくてくと歩いていきました。湖の上では、たくさんの赤とんぼが、透き通った羽をお日様にキラキラ光らせながら、群れになって飛んでいました。

【第6章 秋の村のベールづくり】


 歩きながら、王子様は、ちょっとばかにするように、こんなことを言いました。

「テントウ虫姫は、まだ小さいから、秋の村のベールづくりのことなんて知らないだろうな」

 ひかりちゃんは、本当はベールづくりのことなんて全然知らなかったけど、そう言うとますますばかにされそうで悔しかったので、

「あら、ベールづくりのことぐらい、ずっと前から知っていますわ」

と、うそをつきました。王子様は、

「へぇ」

と、からかうような顔をしました。ひかりちゃんは、赤い顔になりながら、

「ただ、ちょっと、算数の勉強が忙しくて、その・・・忘れてしまったのでございます。ちょっと話を聞けば、きっと、絶対に、思い出すと思うのですが・・・」

と、言いました。

 王子様は、クスクス笑って、ベールづくりのことを教えてくれました。

 あらそう、あおいちゃんも、ベールづくりのこと知らないの。

 あのね、ベールづくりっていうのはね、秋の村のお仕事のひとつでね、赤とんぼの羽と、朝露で濡れた蜘蛛の巣と、山芋のネバネバと、人間の国から拝借してきた綿菓子のフワフワを編み込んで、大きな大きなベールを作ることなんだって。

「その、ベールは何に使うかというと」

と、言いながら、王子様は、お空を見上げました。

 あおいちゃん、タラターナの国のお空は、人間の国と違ってたんだよね。覚えてる?そう、タラターナの国のお空には、海があるんだよね。よく覚えてたねえ。あおいちゃんは、かしこい、かしこい。

 ひかりちゃんが、つられてお空を見上げると、そこには海がありました。海の中で、お日様が柔らかく輝いていました。海の中を泳ぐ、銀色の魚の群れも見えました。それよりもっと深いところには、はっきり見えないけれど、何か大きな大きなお魚が、ゆっくりと動いていくのも見えました。

「僕らの国では、お日様の光を直接あびないように、こうして海が守ってくれてるからいいけどさ、人間の国の空には、どういうわけか海がないものだから、僕らがベールを作って、お日様の光を和らげてあげなきゃいけなんだ」

と、日の王子は言いました。

「なんたって、お日様の光はさ、そのまま浴びたりしたら、タラターナの国も、人間の国も、いっぺんに燃やしちゃうくらい、すごいものなんだからさ」

 そう言うとき、日の王子は、なんだかとても誇らしそうに見えました。

 そうだね、日の王子は、お日様の「使い」だから、きっとお日様が大好きなんだね。

 ひかりちゃんは、タラターナの国の人が作ったベールが、人間を、お日様の光から守ってくれているなんて全然知らなかったので、大変驚きました。そして、心の中で「お家に帰ったら、お母さんに教えてあげよう」と思いました。

 やがて、道の向こうに、赤い屋根のかわいらしい建物が見えてきました。少し前を飛んでいたミチアンナイが、ブーンと戻ってきて、

「王子様、あれに見えますのが、秋の村の小さな小さな郵便局にございます」

と、言いました。

 小さな小さな郵便局の前では、小さな小さな郵便局長さんが、にこにこしながら、ふたりを待っていました。ころころとよく太っていて、ズボンを吊るしている紐が、いまにもはじけ飛んでしまいそうに見えました。真っ白いふさふさ眉毛に、真っ白いふさふさおひげの、とてもやさしそうな郵便局長さんです。

「やあやあ、日の王子、よくいらっしゃいました」

そう言うと、郵便局長さんは、王子様をまぶしそうに見上げました。

「ずいぶん、大きくなって。立派な若者になって」

郵便局長さんは、ちょっと涙ぐんでいるみたいでした。

「郵便局長さん、お久しぶりです。ベールの配達が大変だと聞いています。いつも、人間の国のためにありがとうございます」

と、日の王子は、礼儀正しくお辞儀をしました。ひかりちゃんも、心の中で「ありがとうございます」と、言いました。

「まったくなあ、年寄からこどもまで、村中総出でベールを編んでも、間に合いませんのじゃ」

と、郵便局長さんは、真っ白な眉毛を、悲しそうにひそめました。そして・・・。

 あらあら、おばちゃん、今日はずいぶん長くしゃべっちゃったね。眠かったでしょう。ごめんごめん。

 もっと続きが、聞きたいの?でも、今日はもう遅いから、寝ようね。明日また、いっぱいお話してあげるからね。明日は、ふたりとも、お風邪が治って、元気になりますように。あおいちゃん、なつきちゃん、おやすみなさい。


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