2011年06月11日
【第四章 仮装パーティ】
第四章 仮装パーティ
あおいちゃん、今日はずいぶん呪文を練習してたみたいだね。言えるようになった?ちょっと、おばちゃんと一緒に、言ってみようか。
『カエルピョコピョコ、ミピョコピョコ。
あわせてピョコピョコ、ムピョコピョコ』
ああ、上手だ。上手に言えるようになったね。
あのね、いつも汚れたお人形をおんぶしてる、ちょっと怖い顔をしたおばあちゃんがいるでしょう。あのおばあちゃんが、あおいちゃんが呪文の練習をしているのを見て笑ってたんだって。あのおばあちゃんが笑うなんて珍しいって、みんなびっくりしてたよ。あおいちゃんが、あんまり一生懸命だったから、きっと怖いおばあちゃんも、嬉しくなっちゃったんだね。
えっ、なつきちゃんも言えるようになったの?どれどれ、言ってごらん。
あはははは。上手、上手。おばちゃん、びっくりしたよ。これなら、ふたりとも、いつでもタラターナの国に行けるね。それじゃあ、お話の続きを始めましょう。
ミチアンナイは、それからまた少し飛んで、ひかりちゃんをお城の扉のところまで案内すると、ひかりちゃんの頭の上で、礼儀正しく3回まわって、どこかに飛んでいってしまいました。
お城の扉は、深緑色をした特別がんじょうな石でできていて、取っ手には金色のカエルがついていました。扉の両側には、ひかりちゃんと同じくらいの背丈のバッタが、紳士らしく帽子をかぶって立っていました。
紳士のバッタたちは、ひかりちゃんにふかぶかとおじぎをすると、声を合わせてこう言いました。
「これはこれは、テントウ虫姫さま、本日は、舞踏会にようこそ」
ひかりちゃんは、お姫様らしく上品に会釈をすると、扉を開けようとしました。すると、2人の紳士バッタが、手に持っていた長い剣を、両側からひかりちゃんの前にさっと差し出して、前に進めないようにしてしまったので、ひかりちゃんは、あやうく転んでしまいそうになりました。
2人の紳士バッタは、帽子のつばにさっと手をやると、声を合わせて、
「や、これは失礼しました」
と、言いました。
「しかし、今日は仮装パーティとご案内を差し上げていたはずですよ。それを、ご存じないとは・・・」
と、2人の紳士バッタが眉をひそめました。なんだか、ひかりちゃんのことを怪しんでいるようです。ひかりちゃんは、とっさに、手のひらを口元にもっていくと、
「おーっほっほ、まさか。知らないわけがないじゃございませんこと」
と笑いました。ひかりちゃんは、毎日のようにみどりちゃん(おばちゃんのことね)と、お姫様ごっこをしているので、お姫様の真似がとても上手なのです。
ひかりちゃんは、テントウ虫のレインコートを、ばっと脱ぎました。
「な、なんと」
「人間の仮装をするとは、大胆な」
2人の紳士バッタは、動揺のあまり、それぞれ勝手なことを口走ってしまいました。でも、すぐに気を取り直して、
「これはこれは、失礼いたしました。テントウ虫姫さま、さすがでございます。改めまして・・・タラターナ城主催、第189回、仮装パーティへようこそ!」
と声を合わせていうと、両側から、扉を大きく開いてくれました。
中から、どっと、ウキウキするようなオーケストラの音楽が流れてきました。
思い思いの格好、たとえば薔薇だとか、孔雀だとか、熱帯魚だとか、の仮装をした紳士淑女たちが、楽しそうにステップを踏ん
だり、くるくる回ったりしていました。
天井からは、白や黄色やピンクや水色の見たこともないような花びらが、ひらひら、ひらひらと降ってきていて、それはそれは美しかったそうです。
ホールで踊っていた人たちは、扉が開くと同時に、一斉に動きを止めて、ひかりちゃんのほうを見ました。
「人間だ」
「人間だ」
「人間だ」
「人間だ」
ひかりちゃんは、どうしていいかわからず、立ちすくんでしまいました。
そのとき、ふたつの「エッヘン」という咳払いが重なって聞こえました。
「レディースアンドジェントルメン、こちらにいらっしゃいますのは、テントウ虫姫であらせられますぞ。なんと、人間の娘の仮装をしてこられたのでございます」
2人の紳士バッタが、声も高らかに宣言すると、ホールにいた人たちは、
「なんとまあ」
「あまりにも仮装が上手で、本物かと思ってしまいましたよ」
「テントウ虫姫なら安心だ」
「テントウ虫姫なら安心ね」
と口々につぶやきながら、踊りに戻っていきました。
ひかりちゃんは、テントウ虫のレインコートを腕にかけると、お姫さまらしく、しずしずとお城の中に入っていきました。踊っている人たちが、みんな軽く会釈をして、道を開けてくれました。タラターナの国の人たちは、みんな小さいと聞いていたけれど、ここの人たちは、みんなひかりちゃんと同じか、もう少し背が高いくらいでした。踊っている人たちの周りには、ぐるりと銀のお皿が並んでいて、そこには美味しそうなお料理が湯気を上げて並んでいました。どんなものがあったと思う?
カレー?もちろん、ありました。ビーフカレーにチキンカレーにポークカレー。野菜カレーにフルーツカレーにシーフードカレー。それぞれに、辛口・中辛・甘口が用意されています。他には?
ハンバーグ?ハンバーグだって、もちろんあります。トマトソースをかけたのや、とろけるチーズをのせたのや、目玉焼きをのせたのや、大根おろしをのせた和風味のや、揚げたのや、そうそうお豆腐で作ったヘルシーなハンバーグだってありました。もう、あおいちゃんとなつきちゃんがお腹ぽんぽんになるくらい食べたって、全然なくならないくらい、たくさんの種類が並んでいたんだって。
ひかりちゃんが、お料理をながめたり、ちょっとつまみ食いをしたりしながら、歩いていると、どこからかまたあの声が、頭の中で聞こえてきました。
「助けて、助けて」
こんなに楽しそうなパーティなのに、一体誰が困っているというのでしょう。ひかりちゃんは、キョロキョロとあたりを見回しました。そして、みんなが踊っているホールの奥の、一段高くなったところに、カエルの姿をした王様とお妃様と王子様が座っているのを発見しました。
なぜ王様だとわかったかというと、とても大きな宝石で飾られた立派な王冠をかぶっていて、黄金色のマントを肩にかけていたからです。お妃様は、ホールの誰よりも豪華なドレスを着て、見るたびに色が変わる、うっとりするようなショールを羽織っていましたし、王子様は、王様のよりはひとまわり小さい、それでも十分に立派な王冠をかぶっていました。そして、ホール中が浮かれている中、この3人だけが、なんだか沈んでいるように見えました。

ひかりちゃんは、思いきって、王様のところに行ってみることにしました。王様が座っている椅子の前には、赤いじゅうたんが、長い道のように敷かれていました。ひかりちゃんは、お姫様らしく、ツンとあごをあげて、ゆっくりとじゅうたんの上を歩きました。
そして、王様の前までくると、スカートのすそをちょんとつまんで、とても優雅にお辞儀をしました。それはまるで、本物のお姫様のようだったんだって。
「王様、こんにちは。テントウ虫姫です。このたびは、お招きにあずかり、光栄でございます」
ひかりちゃんは、お姫様が出てくるマンガが好きなので、こんな難しいことだって言えるのです。
王様は、悲しい目をして、
「うむ」
とだけ返事をすると、そのままうつむいてしまいました。あれれ?ひかりちゃんに「助けて」って言ってたのは、この王様じゃないのかなあ。
次に、ひかりちゃんは、お妃様のほうを向いて、にっこり微笑みました。お妃様は、悲しそうに微笑むと、どこか遠くの方に目を向けてしまいました・
最後に、ひかりちゃんは、王子様のほうを向いて、その目をのぞきこみました。王子様は、びっくりしたように、パチパチパチと3回まばたきをしました。
ひかりちゃんは、「きっと、この王子様が、私を呼んだのに違いない」と思いました。あおいちゃんも、そう思う?どうだろうね。もう少し、お話を聞いていたらわかるよ。
それでね、ひかりちゃんは、王子様に向かって、もう一度優雅にお辞儀をすると、こんなことを言ったそうです。
「王子様、学習ドリルがようやく出来上がりましたので、こちらにお持ちしました」
「が・・・なんだって?」
王子様は、びっくりして、思わず聞き返しました。
「学習ドリルでございます」
と、ひかりちゃんは、すましていいました。
「算数の学習ドリルが出来上がったのですが、かけ算のやり方がお気に召すかどうかが、ちょっと心配なのでございます。そこで、王子様に一度試してもらいたいと思いまして、本日お城に持ってきたのです」
「な・・・なんで、算数ドリルなんか?」
王子様が、焦って言いました。ひかりちゃんは、足をドンと踏み鳴らすと、ちょっと怒ったように、こう言いました。
「なんでって、王子様、お忘れでございますか?私たちテントウ虫一族は、代々タラターナ国の算数大臣を仰せつかってまいりました、由緒正しい家系でございます。私たちには、王子様の算数教育に対する責任があるのでございますよ」
ひかりちゃんは、このとき、すっかりテントウ虫姫になりきっていました。あまりにもその演説が素晴らしかったので、思わず王様が拍手をしてしまったくらいです。お妃様も、大きくうなずいて、
「王子様、せっかくテントウ虫姫がこのように言ってくださっているのですから、知恵の部屋に行って、ドリルを試してごらんなさい」
と言いました。
王子様は、王様やお妃様に聞こえないくらいの小さな声で、「ちぇっ」と言うと、ひかりちゃんの前をズンズン歩いていきました。
ひかりちゃんは、ぺろっと舌を出しながら、その後ろを、小走りで追いかけていきました。
そうだね。カエルの王子様は、自分で「助けて、助けて」ってひかりちゃんを呼んだくせに、どうしてひかりちゃんのこと知らないふりしたんだろうね。その話は、明日してあげるね。今日は、ずいぶん長くお話ししちゃったから、もう寝ないとね。
あら、なつきちゃんったら、おっきなおめめをぱっちり開けて、今日は寝ないで最後まで聞いてたの。カレーのところが、面白かった?そりゃあ、よかったね。
そうそう、今日も、タラターナ人さんに祈りをして、寝なくちゃね。
「タラターナ人さん、今日は晴れにしてくれて、ありがとうございました。明日も、いいお天気にしてください。よろしくお願いします」
はい、これで大丈夫。ふたりとも、安心しておやすみなさい。
あおいちゃん、今日はずいぶん呪文を練習してたみたいだね。言えるようになった?ちょっと、おばちゃんと一緒に、言ってみようか。
『カエルピョコピョコ、ミピョコピョコ。
あわせてピョコピョコ、ムピョコピョコ』
ああ、上手だ。上手に言えるようになったね。
あのね、いつも汚れたお人形をおんぶしてる、ちょっと怖い顔をしたおばあちゃんがいるでしょう。あのおばあちゃんが、あおいちゃんが呪文の練習をしているのを見て笑ってたんだって。あのおばあちゃんが笑うなんて珍しいって、みんなびっくりしてたよ。あおいちゃんが、あんまり一生懸命だったから、きっと怖いおばあちゃんも、嬉しくなっちゃったんだね。
えっ、なつきちゃんも言えるようになったの?どれどれ、言ってごらん。
あはははは。上手、上手。おばちゃん、びっくりしたよ。これなら、ふたりとも、いつでもタラターナの国に行けるね。それじゃあ、お話の続きを始めましょう。
ミチアンナイは、それからまた少し飛んで、ひかりちゃんをお城の扉のところまで案内すると、ひかりちゃんの頭の上で、礼儀正しく3回まわって、どこかに飛んでいってしまいました。
お城の扉は、深緑色をした特別がんじょうな石でできていて、取っ手には金色のカエルがついていました。扉の両側には、ひかりちゃんと同じくらいの背丈のバッタが、紳士らしく帽子をかぶって立っていました。
紳士のバッタたちは、ひかりちゃんにふかぶかとおじぎをすると、声を合わせてこう言いました。
「これはこれは、テントウ虫姫さま、本日は、舞踏会にようこそ」
ひかりちゃんは、お姫様らしく上品に会釈をすると、扉を開けようとしました。すると、2人の紳士バッタが、手に持っていた長い剣を、両側からひかりちゃんの前にさっと差し出して、前に進めないようにしてしまったので、ひかりちゃんは、あやうく転んでしまいそうになりました。
2人の紳士バッタは、帽子のつばにさっと手をやると、声を合わせて、
「や、これは失礼しました」
と、言いました。
「しかし、今日は仮装パーティとご案内を差し上げていたはずですよ。それを、ご存じないとは・・・」
と、2人の紳士バッタが眉をひそめました。なんだか、ひかりちゃんのことを怪しんでいるようです。ひかりちゃんは、とっさに、手のひらを口元にもっていくと、
「おーっほっほ、まさか。知らないわけがないじゃございませんこと」
と笑いました。ひかりちゃんは、毎日のようにみどりちゃん(おばちゃんのことね)と、お姫様ごっこをしているので、お姫様の真似がとても上手なのです。
ひかりちゃんは、テントウ虫のレインコートを、ばっと脱ぎました。
「な、なんと」
「人間の仮装をするとは、大胆な」
2人の紳士バッタは、動揺のあまり、それぞれ勝手なことを口走ってしまいました。でも、すぐに気を取り直して、
「これはこれは、失礼いたしました。テントウ虫姫さま、さすがでございます。改めまして・・・タラターナ城主催、第189回、仮装パーティへようこそ!」
と声を合わせていうと、両側から、扉を大きく開いてくれました。
中から、どっと、ウキウキするようなオーケストラの音楽が流れてきました。
思い思いの格好、たとえば薔薇だとか、孔雀だとか、熱帯魚だとか、の仮装をした紳士淑女たちが、楽しそうにステップを踏ん
だり、くるくる回ったりしていました。
天井からは、白や黄色やピンクや水色の見たこともないような花びらが、ひらひら、ひらひらと降ってきていて、それはそれは美しかったそうです。
ホールで踊っていた人たちは、扉が開くと同時に、一斉に動きを止めて、ひかりちゃんのほうを見ました。
「人間だ」
「人間だ」
「人間だ」
「人間だ」
ひかりちゃんは、どうしていいかわからず、立ちすくんでしまいました。
そのとき、ふたつの「エッヘン」という咳払いが重なって聞こえました。
「レディースアンドジェントルメン、こちらにいらっしゃいますのは、テントウ虫姫であらせられますぞ。なんと、人間の娘の仮装をしてこられたのでございます」
2人の紳士バッタが、声も高らかに宣言すると、ホールにいた人たちは、
「なんとまあ」
「あまりにも仮装が上手で、本物かと思ってしまいましたよ」
「テントウ虫姫なら安心だ」
「テントウ虫姫なら安心ね」
と口々につぶやきながら、踊りに戻っていきました。
ひかりちゃんは、テントウ虫のレインコートを腕にかけると、お姫さまらしく、しずしずとお城の中に入っていきました。踊っている人たちが、みんな軽く会釈をして、道を開けてくれました。タラターナの国の人たちは、みんな小さいと聞いていたけれど、ここの人たちは、みんなひかりちゃんと同じか、もう少し背が高いくらいでした。踊っている人たちの周りには、ぐるりと銀のお皿が並んでいて、そこには美味しそうなお料理が湯気を上げて並んでいました。どんなものがあったと思う?
カレー?もちろん、ありました。ビーフカレーにチキンカレーにポークカレー。野菜カレーにフルーツカレーにシーフードカレー。それぞれに、辛口・中辛・甘口が用意されています。他には?
ハンバーグ?ハンバーグだって、もちろんあります。トマトソースをかけたのや、とろけるチーズをのせたのや、目玉焼きをのせたのや、大根おろしをのせた和風味のや、揚げたのや、そうそうお豆腐で作ったヘルシーなハンバーグだってありました。もう、あおいちゃんとなつきちゃんがお腹ぽんぽんになるくらい食べたって、全然なくならないくらい、たくさんの種類が並んでいたんだって。
ひかりちゃんが、お料理をながめたり、ちょっとつまみ食いをしたりしながら、歩いていると、どこからかまたあの声が、頭の中で聞こえてきました。
「助けて、助けて」
こんなに楽しそうなパーティなのに、一体誰が困っているというのでしょう。ひかりちゃんは、キョロキョロとあたりを見回しました。そして、みんなが踊っているホールの奥の、一段高くなったところに、カエルの姿をした王様とお妃様と王子様が座っているのを発見しました。
なぜ王様だとわかったかというと、とても大きな宝石で飾られた立派な王冠をかぶっていて、黄金色のマントを肩にかけていたからです。お妃様は、ホールの誰よりも豪華なドレスを着て、見るたびに色が変わる、うっとりするようなショールを羽織っていましたし、王子様は、王様のよりはひとまわり小さい、それでも十分に立派な王冠をかぶっていました。そして、ホール中が浮かれている中、この3人だけが、なんだか沈んでいるように見えました。

ひかりちゃんは、思いきって、王様のところに行ってみることにしました。王様が座っている椅子の前には、赤いじゅうたんが、長い道のように敷かれていました。ひかりちゃんは、お姫様らしく、ツンとあごをあげて、ゆっくりとじゅうたんの上を歩きました。
そして、王様の前までくると、スカートのすそをちょんとつまんで、とても優雅にお辞儀をしました。それはまるで、本物のお姫様のようだったんだって。
「王様、こんにちは。テントウ虫姫です。このたびは、お招きにあずかり、光栄でございます」
ひかりちゃんは、お姫様が出てくるマンガが好きなので、こんな難しいことだって言えるのです。
王様は、悲しい目をして、
「うむ」
とだけ返事をすると、そのままうつむいてしまいました。あれれ?ひかりちゃんに「助けて」って言ってたのは、この王様じゃないのかなあ。
次に、ひかりちゃんは、お妃様のほうを向いて、にっこり微笑みました。お妃様は、悲しそうに微笑むと、どこか遠くの方に目を向けてしまいました・
最後に、ひかりちゃんは、王子様のほうを向いて、その目をのぞきこみました。王子様は、びっくりしたように、パチパチパチと3回まばたきをしました。
ひかりちゃんは、「きっと、この王子様が、私を呼んだのに違いない」と思いました。あおいちゃんも、そう思う?どうだろうね。もう少し、お話を聞いていたらわかるよ。
それでね、ひかりちゃんは、王子様に向かって、もう一度優雅にお辞儀をすると、こんなことを言ったそうです。
「王子様、学習ドリルがようやく出来上がりましたので、こちらにお持ちしました」
「が・・・なんだって?」
王子様は、びっくりして、思わず聞き返しました。
「学習ドリルでございます」
と、ひかりちゃんは、すましていいました。
「算数の学習ドリルが出来上がったのですが、かけ算のやり方がお気に召すかどうかが、ちょっと心配なのでございます。そこで、王子様に一度試してもらいたいと思いまして、本日お城に持ってきたのです」
「な・・・なんで、算数ドリルなんか?」
王子様が、焦って言いました。ひかりちゃんは、足をドンと踏み鳴らすと、ちょっと怒ったように、こう言いました。
「なんでって、王子様、お忘れでございますか?私たちテントウ虫一族は、代々タラターナ国の算数大臣を仰せつかってまいりました、由緒正しい家系でございます。私たちには、王子様の算数教育に対する責任があるのでございますよ」
ひかりちゃんは、このとき、すっかりテントウ虫姫になりきっていました。あまりにもその演説が素晴らしかったので、思わず王様が拍手をしてしまったくらいです。お妃様も、大きくうなずいて、
「王子様、せっかくテントウ虫姫がこのように言ってくださっているのですから、知恵の部屋に行って、ドリルを試してごらんなさい」
と言いました。
王子様は、王様やお妃様に聞こえないくらいの小さな声で、「ちぇっ」と言うと、ひかりちゃんの前をズンズン歩いていきました。
ひかりちゃんは、ぺろっと舌を出しながら、その後ろを、小走りで追いかけていきました。
そうだね。カエルの王子様は、自分で「助けて、助けて」ってひかりちゃんを呼んだくせに、どうしてひかりちゃんのこと知らないふりしたんだろうね。その話は、明日してあげるね。今日は、ずいぶん長くお話ししちゃったから、もう寝ないとね。
あら、なつきちゃんったら、おっきなおめめをぱっちり開けて、今日は寝ないで最後まで聞いてたの。カレーのところが、面白かった?そりゃあ、よかったね。
そうそう、今日も、タラターナ人さんに祈りをして、寝なくちゃね。
「タラターナ人さん、今日は晴れにしてくれて、ありがとうございました。明日も、いいお天気にしてください。よろしくお願いします」
はい、これで大丈夫。ふたりとも、安心しておやすみなさい。
Posted by tammy at 10:02│Comments(0)
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