2011年06月10日
【第三章 呪文】
第三章 呪文
昨日寝る前に、タラターナ人さんにお願いするのを忘れちゃったから、今日は雪が降って寒かったね。お年寄りや赤ちゃんが、寒いよ~寒いよ~って言ってたから、今日は忘れないようにお願いしようね。なつきちゃんも、一緒にお願いする?そう、それはおばちゃん、とっても助かるなあ。
あれ?なつきちゃん、そういえば、今日はお布団に入っても、エ~ンエ~ンって泣かないんだね。そっか、もうおねえちゃんだもんね。えらいえらい。
昨日は、ひかりちゃんが、テントウ虫のレインコートを着て、赤い長靴を履いて、お庭に出たところまでお話したよね。ひかりちゃんが、お庭に出たらね、さっきまでも白いもやがかかっていたんだけど、それがもっともっと白くなって、牛乳みたいになって、熊本のおばあちゃんちのお庭のはじっこに、ミカンの木があるでしょ、あの木だって見えなくなっちゃったんだって。
ひかりちゃんは、転ばないように、そーっとそーっと一歩ずつ歩きました。ひかりちゃんが足を動かすと、白いもやがそこだけ小さく動いて、足元の芝生や、スミレの群れがぼんやりと見えました。
おばあちゃんちのお庭に、ところどころ大きな石が置いてあって、その周りにスミレがいっぱい咲いているのを知ってるでしょう。あのスミレは、みんなおばちゃんが植えたんだよ。おばちゃんが小さいときに植えて、その子どもスミレか孫スミレが、いまも咲いてるんだよ。
そしてね、ひかりちゃんやおばちゃん、おばちゃんは、あおいちゃんやなつきちゃんのママの妹だから、そのころはまだ幼稚園の年長さんで、みどりちゃんって呼ばれていたんだけどね、ひかりちゃんやみどりちゃんは、いっつもお庭でおままごとをして遊んでいたから、お庭のどこにどんな石があって、どんなお花が咲いているか、よ~く知っていました。
ひかりちゃんは、スミレの群れを踏んづけないように、少しだけ遠回りして、またゆっくりゆっくりと歩きました。ひかりちゃんは、ヨウシュヤマブドウの木のところに行こうとしていたのです。
ヨウシュヤマブドウって知ってる?紫色の実が葡萄みたいにいっぱいなっててね、それをコップに入れてつぶして、お水を足すと、本物のジュースみたいにきれいな葡萄色になるんだよ。ひかりちゃんは、ヨウシュヤマブドウの実に、お水のかわりに、お庭の白いもやを混ぜたら、葡萄のミルクセーキみたいにならないかなあって思って、採りに行ったんだって。ヨウシュヤマブドウの実は、本当は秋に紫色になるんだけど、その年はなぜか春にも紫色になって、お母さんが不思議がっていたのを、思い出したんだって。

ところが、スミレの群れのすぐ先にあるはずのヨウシュヤマブドウの木は、なかなか見つかりませんでした。頭の中で、また、「助けて、助けて」という声が聞こえました。
ひかりちゃんにまとわりついていた真っ白なもやは、いつの間にか、牛乳よりも濃いシチューみたいになって、ひかりちゃんは、とうとう自分の手の先も、足の先も見えなくなってしまいました。もう、どこが前でどこが後ろなのか、どこが上でどこが下なのかもわかりません。それでね、ひかりちゃんは、怖くなって、思わずしゃがみこんでしまったんだって
そのときです。どこからか何かが飛んできて、ひかりちゃんのお鼻にバシンとぶつかりました。ひかりちゃんはびっくりして、思わずしりもちをついてしまいました。ひかりちゃんのお鼻にぶつかったのは、ミチアンナイでした。

ミチアンナイって、知ってる?七色のシマシマ模様の羽でブーンって飛んで、どこでも行きたいところに案内してくれる虫なんだよ。
ミチアンナイは、ひかりちゃんの頭の周りを飛び回ると、ひかりちゃんに、こんなことを言いました。
「不格好で、ヤボなテントウ虫!呪文を知らないやつは、入れてやらないぞ。呪文を知らないやつは、人間の国で虫かごに入れられてしまえ!」
ねぇ、ずいぶんひどいミチアンナイだよね。ひかりちゃんも、そう思ったんだって。だからね、大きな声で、
「呪文、知ってるもん!」
って、言いました。
「へぇ、知ってるもんなら言ってみろ。知ってるもんなら言ってみろ」
ひかりちゃんは、ひかりちゃんのお母さんが、呪文のことを何か言っていたのを一生懸命思い出そうとしました。だけど、ミチアンナイがわぁわぁ騒ぐので、なかなか思い出すことができません。
あおいちゃんは、呪文のこと覚えてる?そうだね、ひかりちゃんのお母さんが、ポケットの中に入れておくよって言ったよね。それなのに、ひかりちゃんは忘れちゃったんだって。あおいちゃん、教えてあげてくれる?
うわっ、おっきな声だねえ。きっと、ひかりちゃんにも聞こえたんじゃないかな。ひかりちゃんは、急にお母さんが言ったことを思い出して、両方のポケットに手を入れてみました。そしたらね、右のポケットに、なんだかツルツルした緑色の紙が入っていました。そして、その紙には、こんな呪文が書いてありました。あおいちゃん、読んでみてくれる?
あはははは。あ~、笑った笑った。こんなに笑ったのは、久しぶりだよ。おばちゃん、笑いすぎて、涙が出てきちゃったよ。あおいちゃんには、ちょっと難しかったよね。明日、練習してみてね。今日は、おばちゃんが読むからね。
ポケットの中に入っていたツルツルの紙には、こんな呪文が書かれていました。
『カエルピョコピョコ、ミピョコピョコ。
あわせてピョコピョコ、ムピョコピョコ』
ずいぶん、難しい呪文だよね。ひかりちゃんも何度も言い間違えたんだって。そのたびに、ミチアンナイが大笑いするから悔しくて、何度も何度も言い直したんだって。
そして、十二回目に、やっと、ちゃんと言うことができました。
そしたらね、さっきまですっごく感じの悪かったミチアンナイが、急にしゃっきりして、ふかぶかとおじぎをすると、
「これはこれは、テントウ虫姫さま、大変失礼をいたしました。こちらがこの時間の入り口になっております。本日は、舞踏会にようこそいらっしゃいました」
って言うと、虹色の羽を広げて、ひかりちゃんの前をゆっくり飛び始めたんだって。
ひかりちゃんを包み込んでいた真っ白なもやは、少しずつシチューから牛乳に、牛乳からカルピスくらいの色に、そしてその次は、お米を研いだときの水くらいの薄い色に変わっていきました。
ひかりちゃんの前には、いつの間にか長い長いお花の道が続いていました。ミチアンナイはその道を少し飛んでは振り返って、ひかりちゃんが追いつくと、また少し飛んでっていうふうにして、ひかりちゃんを、お城の門のところまで、連れていってくれたんだって。
そうだよね。さっきまで、ひかりちゃんは、おうちのお庭にいたはずなのに、どうしてそんなところにいるんだろうね。不思議だね。
ミチアンンナイが案内してくれた門には、「タラターナ城 春の門」って書いてありました。

こんなふうにして、ひかりちゃんは、知らず知らずのうちに、タラターナの国に入っていったのです。タラターナの国がどんな国なのかは、明日またお話するね。今日は、ずいぶん冷えるから、そろそろ寝ようね。
そうそう、明日は暖かくなるように、タラターナ人さんにお願いしておくんだったね。
「タラターナ人さん、明日は晴れにしてください。明日は、暖かくしてください。よろしくお願いします。」
さあ、これで大丈夫。おやすみなさい。
昨日寝る前に、タラターナ人さんにお願いするのを忘れちゃったから、今日は雪が降って寒かったね。お年寄りや赤ちゃんが、寒いよ~寒いよ~って言ってたから、今日は忘れないようにお願いしようね。なつきちゃんも、一緒にお願いする?そう、それはおばちゃん、とっても助かるなあ。
あれ?なつきちゃん、そういえば、今日はお布団に入っても、エ~ンエ~ンって泣かないんだね。そっか、もうおねえちゃんだもんね。えらいえらい。
昨日は、ひかりちゃんが、テントウ虫のレインコートを着て、赤い長靴を履いて、お庭に出たところまでお話したよね。ひかりちゃんが、お庭に出たらね、さっきまでも白いもやがかかっていたんだけど、それがもっともっと白くなって、牛乳みたいになって、熊本のおばあちゃんちのお庭のはじっこに、ミカンの木があるでしょ、あの木だって見えなくなっちゃったんだって。
ひかりちゃんは、転ばないように、そーっとそーっと一歩ずつ歩きました。ひかりちゃんが足を動かすと、白いもやがそこだけ小さく動いて、足元の芝生や、スミレの群れがぼんやりと見えました。
おばあちゃんちのお庭に、ところどころ大きな石が置いてあって、その周りにスミレがいっぱい咲いているのを知ってるでしょう。あのスミレは、みんなおばちゃんが植えたんだよ。おばちゃんが小さいときに植えて、その子どもスミレか孫スミレが、いまも咲いてるんだよ。
そしてね、ひかりちゃんやおばちゃん、おばちゃんは、あおいちゃんやなつきちゃんのママの妹だから、そのころはまだ幼稚園の年長さんで、みどりちゃんって呼ばれていたんだけどね、ひかりちゃんやみどりちゃんは、いっつもお庭でおままごとをして遊んでいたから、お庭のどこにどんな石があって、どんなお花が咲いているか、よ~く知っていました。
ひかりちゃんは、スミレの群れを踏んづけないように、少しだけ遠回りして、またゆっくりゆっくりと歩きました。ひかりちゃんは、ヨウシュヤマブドウの木のところに行こうとしていたのです。
ヨウシュヤマブドウって知ってる?紫色の実が葡萄みたいにいっぱいなっててね、それをコップに入れてつぶして、お水を足すと、本物のジュースみたいにきれいな葡萄色になるんだよ。ひかりちゃんは、ヨウシュヤマブドウの実に、お水のかわりに、お庭の白いもやを混ぜたら、葡萄のミルクセーキみたいにならないかなあって思って、採りに行ったんだって。ヨウシュヤマブドウの実は、本当は秋に紫色になるんだけど、その年はなぜか春にも紫色になって、お母さんが不思議がっていたのを、思い出したんだって。

ところが、スミレの群れのすぐ先にあるはずのヨウシュヤマブドウの木は、なかなか見つかりませんでした。頭の中で、また、「助けて、助けて」という声が聞こえました。
ひかりちゃんにまとわりついていた真っ白なもやは、いつの間にか、牛乳よりも濃いシチューみたいになって、ひかりちゃんは、とうとう自分の手の先も、足の先も見えなくなってしまいました。もう、どこが前でどこが後ろなのか、どこが上でどこが下なのかもわかりません。それでね、ひかりちゃんは、怖くなって、思わずしゃがみこんでしまったんだって
そのときです。どこからか何かが飛んできて、ひかりちゃんのお鼻にバシンとぶつかりました。ひかりちゃんはびっくりして、思わずしりもちをついてしまいました。ひかりちゃんのお鼻にぶつかったのは、ミチアンナイでした。

ミチアンナイって、知ってる?七色のシマシマ模様の羽でブーンって飛んで、どこでも行きたいところに案内してくれる虫なんだよ。
ミチアンナイは、ひかりちゃんの頭の周りを飛び回ると、ひかりちゃんに、こんなことを言いました。
「不格好で、ヤボなテントウ虫!呪文を知らないやつは、入れてやらないぞ。呪文を知らないやつは、人間の国で虫かごに入れられてしまえ!」
ねぇ、ずいぶんひどいミチアンナイだよね。ひかりちゃんも、そう思ったんだって。だからね、大きな声で、
「呪文、知ってるもん!」
って、言いました。
「へぇ、知ってるもんなら言ってみろ。知ってるもんなら言ってみろ」
ひかりちゃんは、ひかりちゃんのお母さんが、呪文のことを何か言っていたのを一生懸命思い出そうとしました。だけど、ミチアンナイがわぁわぁ騒ぐので、なかなか思い出すことができません。
あおいちゃんは、呪文のこと覚えてる?そうだね、ひかりちゃんのお母さんが、ポケットの中に入れておくよって言ったよね。それなのに、ひかりちゃんは忘れちゃったんだって。あおいちゃん、教えてあげてくれる?
うわっ、おっきな声だねえ。きっと、ひかりちゃんにも聞こえたんじゃないかな。ひかりちゃんは、急にお母さんが言ったことを思い出して、両方のポケットに手を入れてみました。そしたらね、右のポケットに、なんだかツルツルした緑色の紙が入っていました。そして、その紙には、こんな呪文が書いてありました。あおいちゃん、読んでみてくれる?
あはははは。あ~、笑った笑った。こんなに笑ったのは、久しぶりだよ。おばちゃん、笑いすぎて、涙が出てきちゃったよ。あおいちゃんには、ちょっと難しかったよね。明日、練習してみてね。今日は、おばちゃんが読むからね。
ポケットの中に入っていたツルツルの紙には、こんな呪文が書かれていました。
『カエルピョコピョコ、ミピョコピョコ。
あわせてピョコピョコ、ムピョコピョコ』
ずいぶん、難しい呪文だよね。ひかりちゃんも何度も言い間違えたんだって。そのたびに、ミチアンナイが大笑いするから悔しくて、何度も何度も言い直したんだって。
そして、十二回目に、やっと、ちゃんと言うことができました。
そしたらね、さっきまですっごく感じの悪かったミチアンナイが、急にしゃっきりして、ふかぶかとおじぎをすると、
「これはこれは、テントウ虫姫さま、大変失礼をいたしました。こちらがこの時間の入り口になっております。本日は、舞踏会にようこそいらっしゃいました」
って言うと、虹色の羽を広げて、ひかりちゃんの前をゆっくり飛び始めたんだって。
ひかりちゃんを包み込んでいた真っ白なもやは、少しずつシチューから牛乳に、牛乳からカルピスくらいの色に、そしてその次は、お米を研いだときの水くらいの薄い色に変わっていきました。
ひかりちゃんの前には、いつの間にか長い長いお花の道が続いていました。ミチアンナイはその道を少し飛んでは振り返って、ひかりちゃんが追いつくと、また少し飛んでっていうふうにして、ひかりちゃんを、お城の門のところまで、連れていってくれたんだって。
そうだよね。さっきまで、ひかりちゃんは、おうちのお庭にいたはずなのに、どうしてそんなところにいるんだろうね。不思議だね。
ミチアンンナイが案内してくれた門には、「タラターナ城 春の門」って書いてありました。

こんなふうにして、ひかりちゃんは、知らず知らずのうちに、タラターナの国に入っていったのです。タラターナの国がどんな国なのかは、明日またお話するね。今日は、ずいぶん冷えるから、そろそろ寝ようね。
そうそう、明日は暖かくなるように、タラターナ人さんにお願いしておくんだったね。
「タラターナ人さん、明日は晴れにしてください。明日は、暖かくしてください。よろしくお願いします。」
さあ、これで大丈夫。おやすみなさい。
Posted by tammy at 12:34│Comments(0)
│タラターナ 第1話