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第二章 子どもの仕事   

 今日は、あおいちゃんがタラターナ人にお願いしてくれたおかげで、雪も降らなかったし、暖かくて、本当によかったね。
 お隣のおじいちゃんや、向こうの赤ちゃんがいるお母さんも、みんな「あおいちゃんのおかげで助かった、助かった」って言ってたよ。あおいちゃん、お手柄だね。

 え~っと、昨日は、どこまで話したっけ?そうそう、「あるとき、タラターナの国に、大変なことが起こりました。」っていうところまでだったね。よく覚えてるね~。
 それじゃあ、今日は、その続きをお話ししようね。

 あらあら、なつきちゃん、また悲しくなっちゃったの。お布団に入ると、ママを思い出して、さびしくなっちゃうんだね。よしよし。今日は、なつきちゃんのママが、冒険に出かけるお話だよ。はじまり、はじまり。


 タラターナの国に、大変なことが起こったということに、初めて気づいたのは、ひかりちゃん・・・あおいちゃんとなつきちゃんのママでした。

 どうして気がついたかっていうとね、頭の中で「助けて、助けて」っていう声が聞こえたんだって。あおいちゃんも、お腹がすいたとき、頭の中で「ごはんまだかな~」っていう声が聞こえたり、おうちの中で退屈してるときに、頭の中で「お外に遊びに行きたいよ~」っていう声が聞こえることがあるでしょう?あんな感じでね、誰かの声が聞こえてきたんだって。

 最初は、気のせいかなって思ってたんだけど、あんまり何度も聞こえるものだから、ひかりちゃんは、ひかりちゃんのお母さん(そうだね、熊本のおばあちゃんだね)に、

「誰かが、頭の中で、助けて、助けてって言ってるよ」

って、教えにいったんだって。

 そしたらね、椅子に座ってモヤシのヒゲをとっていたひかりちゃんのお母さんが、ぱっと立ちあがって、

「まあ!ひかりがこんなに早く、こどもの仕事をすることになるなんて!」

って、目をキラキラさせたんだって。そして、

「ちょっと待っててね」

って、ひかりちゃんに言うと、いつもは使っていない奥の物置部屋に行って、しばらくゴトゴトしてたんだって。そしてね、ひかりちゃんが、「まったく、遅いなあ、まだかなあ」と思ったころに、

「あった、あった」

って、何かを手に持って、戻ってきたそうです。

 ひかりちゃんのお母さんは、手に持っていたものを、うやうやしく、ひかりちゃんに着せました。うやうやしくっていうのは、お姫さまに着せるみたいにってことだよ。

 それは、オレンジ色と黒のテントウ虫模様のレインコートでした。背中には羽がついていて、フードをかぶると、頭から二本の触覚がツンツンと飛び出していて、ひかりちゃんは、どこから見てもテントウ虫みたいに見えたそうです。

 ひかりちゃんのお母さんは、満足そうに、テントウ虫になったひかりちゃんを眺めると、ひかりちゃんの肩に手を置いて、真面目な顔をしながら、こんなことを言いました。

「ひかり、タラターナの国で、誰かがとても困っているみたいだから、助けにいかなきゃいけないよ」

 ひかりちゃんは、よく意味がわからなかったけど、お母さんと一緒に行くならいいやと思って、

「わかった」

って答えました。

 そしたら、お母さんが、

「タラターナの国の人を助けられるのは、こどもだけだから、これはこどもの仕事だよ」

って言いました。ひかりちゃんのお母さんが言うには、タラターナの国の人の声はこどもにしか聞こえないし、タラターナの国には、こどもしか入れないのだそうです。

「でもね」

 ひかりちゃんのお母さんは、ひかりちゃんのおでこをツンとつついて言いました。

「誰でも、タラターナの国に行けるわけではないんだよ。特別に元気があって、特別に勇気がある子しか行けないんだよ。ひかり、すごいね!」

 ひかりちゃんのお母さんは、そう言って、にっこり笑いました。だけど、ひかりちゃんは、笑いませんでした。せっかくお母さんが着せてくれたレインコートを、ぱっと脱ぐと、

「ひかり、お母さんと一緒じゃないなら行かない!」

と言って、テレビをつけました。ひかりちゃんのお母さんが、

「ひかり、でも、タラターナの国の人が、助けてって言ってるんでしょ」

って困った声で言ったけど、聞こえないフリをしました。

 あおいちゃんだったら、どうする?そっか~、あおいちゃんもママと一緒じゃなきゃ行かないか。なつきちゃんは?なつきちゃんも、ママと一緒じゃなきゃイヤだよね~。

 でもね、ひかりちゃんは、結局、たったひとりで、タラターナの国に行くことになったのです。もちろん、最初からそのつもりではなかったんだけどね。

 次の日は、日曜日で、学校がお休みでした。朝、ひかりちゃんが目を覚ましたときには、霧のような雨が降っていました。ひかりちゃんが、縁側に出てみると、お外は白いもやがかかったみたいになっていて、なんだか別の世界にいるような気がしたそうです。

 それで、お外を散歩したくなって、お気に入りの赤い長靴を出しに靴箱に行ったら、長靴の上に、昨日のテントウ虫のレインコートが、きれいに畳んで置いてありました。

 昨日見たときは、気がつかなかったけど、レインコートの表面には、金や銀の小さな砂粒がまぶしてあって、宝石みたいにキラキラ光っていたそうです。
【第二章 子どもの仕事】





 それを見たら、もう一度着てみたくなって、ひかりちゃんは、レインコートを手に取りました。そして、自分で上手に着て、ボタンも自分でとめました。ひかりちゃんの手にも、金や銀の砂粒がついて、キラキラ光りました。靴箱の横にある大きな鏡に自分の姿をうつしたら、本当に特別に元気があって、特別に勇気がある子みたいに見えました。

 ひかりちゃんは、テントウ虫のレインコートを着て、赤い長靴を履いて、静かに縁側からお庭に出ようとしました。そのとき、お母さんが気がついて、

「あら、ひかり」

って言いながら、台所から出てきました。ひかりちゃんは、なぜだかドキンとして、目を伏せてしまいました。

 お母さんは、ひかりちゃんのそばまで来ると、黙ってレインコートのいちばん上のボタンをとめてくれました。そこだけ、どうしても自分でとめられなかったのです。

 そして、ひかりちゃんの両方の肩にそっと手をおくと、

「ひかりは、これからテントウ虫になります。人間の子どもではありません」

と言いました。そして、ひかりちゃんが、「えっ?」という顔をすると、

「タラターナの国ではね、人間はとっても怖がられているの。だから、人間だってわかると、誰もお話してくれないし、みんな逃げてしまうんだよ。だから、タラターナの国に行くときは、虫になりきらなきゃいけないんだよ」

って言いました。

 「なりきる」っていうのはね、あおいちゃんがお姫さまごっこをしているときは、もうあおいちゃんじゃなくて、お姫さまになっているでしょう?お母さんごっこで赤ちゃん役をやってるときは、「バブバブブー」って、赤ちゃんになっているでしょう?あれと、おんなじ。だから、こどもにはすぐできるけど、大人には、それはとっても難しいことなんだよ。

 ひかりちゃんは、タラターナの国に行く気なんかなかったけれど、お母さんがあんまり真剣な顔をして言うので、黙ってこっくりとうなずきました。そして、ミルク色のもやに包まれたお庭に、そっと足を下しました。お母さんは、心配そうな顔をすると、

「呪文は、ポケットに入れておいたからね。カタカナは、もう全部しっかり読めるよね」

って言いました。ひかりちゃんは、また黙って、こっくりとうなずきました。なんだか、ドキドキして、声が出なかったのです。

 あおいちゃんは、まだカタカナは読めないよね?えっ、もう読めるの?幼稚園って、いっぱいお勉強するんだねえ。へぇ、ABCも読めるんだ。それは、すごいね。それじゃあ、明日は、おばちゃんが呪文を紙に書いておくから、あおいちゃんに読んでもらおうね。なつきちゃんが、もう眠い眠いって目をこすってるから、今日はここまでにしようね。おやすみなさい、なつきちゃん。おやすみなさい、あおいちゃん。



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